東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1067号 判決
被控訴人が前記手塚羔悟に対し住民登録並びに保健所に対する歯科医開業の届出を委託して自己の印鑑を同人に托したことは既に認定したとおりであるが、民法第百十条の表見代理の規定は本人から或る種の法律行為に関する代理権を授与された者がその権限の範囲を超えてなした法律行為に関し、その取引の相手方となつた善意の第三者を保護し、取引の安全を期するため本人にその責任を負わしめるものであつて、前記住民登録並びに保健所に対する届出の委託をなし、そのために印鑑を他人に交付することは同人に法律行為の代理権限を授与したものとはいえないから、被控訴人から前記委託を受け、その印鑑を托された前記手塚羔悟は未だ前記法条にいう代理人に該当しないものといわなければならない。従つて仮に控訴人において被控訴人と親族関係にある右手塚羔悟に被控訴人の代理人として右保証契約を結ぶ権限があると信じたとしても、右手塚羔悟は表見代理人としての基本代理権をもたない単なる無権代理人にすぎないと認められるのであるから、被控訴人には右無権代理人のなした法律行為につきその責に任ずる義務はないものといわなければならない。
(谷本 堀田 野本)